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パスカル・ジョリシェフ インタビュー
投稿日:2016年6月24日
5月16(月)~18 日(水)の3日間に渡り開催されたシャルキュトリ特別講習会(特別協力フランス料理文化センター)では、ロボクープを使って乳化させるタイプのシャルキュトリや、フランスのコンクールの課題として出題される花模様の飾り「ロザス」、現代の火入れに欠かせないスチコンでの火入れなど、さまざまな技術と理論を伝授したほか、自身のお店について、シャルキュトリの現状や歴史、コンクールのエピソードなどを話してくださいました。
Q1:シャルキュティエになろうと思ったのはなぜですか。
父は骨董商で、私に木彫りアーティストになってほしかったようです。そのため小さい頃は週に2 回、木彫り教室に通っていましたが、どうも好きになれませんでした。
11 歳の夏休み、シャルキュティエだった叔父のところに滞在し、手伝いをさせられたところ、厨房に足を踏み入れた瞬間から「好きだ!」と感じました。それ以来、シャルキュトリ一筋です。でも当時は、シャルキュティエの社会的地位が低く、「落ちこぼれがなるもの」というイメージがあり、私は学校の成績もよかったので、先生には随分反対されました。母が「自分の人生だから、好きなことをしなさい」と応援してくれたのです。
Q2:フランスでは、プロのシャルキュティエになるためにどんな修業をするのですか。
普通は養成校で学んで就職を斡旋してもらい、現場で修業を積みます。1 人前になるには5~6 年、トップクラスになるには10 年くらい必要でしょう。今ではシャルキュトリだけを出す店は殆どなく、トレトゥールもやりますから、私は料理人の下でも2 年間、修業しました。
私の息子もシャルキュティエですが、アンヌ-ソフィー・ピックやヤニック・アレノの店でも研修を受けていますよ。
Q3:シャルキュトリにはさまざまなコンクールがありますが、参加する意義は何ですか?
私は昔から負けず嫌いで、コンクール向きでした。MOF 受章を目標にしていたので、他のコンクールはそのための腕試しでしたね。
MOF コンクールは3 回挑戦しました。2000 年は試験前の3 ケ月、ラボにこもりっきりで、家にも帰りませんでした。MOF の挑戦者は、上司や有名シェフにコーチを受けることが多いですが、私は誰の力も借りず、自分だけで試験を突破したんです。そのおかげで誰に遠慮することもなく仕事ができるので、よかったと思っています。
Q4:フランスにおけるシャルキュトリの存在、現状について教えてください。
豚肉は比較的廉価ですし、シャルキュトリは食材の無駄が少ないので、収益性の高いビジネスなんです。スチコンなどの機器や冷凍・保存技術の向上により、品質管理も飛躍的に改善しています。そしてどこの村にも一軒はシャルキュトリの店があり、それぞれが地域密着の商品、サービス、店舗づくりをしています。しっかりマーケティングをして真面目に働けば、成功のチャンスは大きいと思います。
食の分野ではこれまで、フランスの料理人やパティシエ、ソムリエ、ショコラティエが脚光を浴びてきました。最近ではジル・ヴェロのように国際的に活躍するシャルキュティエが現れ、我々の仕事も注目されるようになってきましたが、世界には宗教上の理由などで豚肉を食べない人がいますので、普及させるのが難しいという面はあります。
Q5:日本では食肉業者ブーシェBoucher と食肉加工職人シャルキュティエCharcutier が混同されがちですが、本国ではどうでしょうか。
ブーシェは食肉の目利き・処理・販売のスペシャリストであり、シャルキュティエとは全く別の職業です。もちろんシャルキュトリの原料である食肉の仕入れを通じて、ブーシェと仕事をすることはありますし、簡単な調理済み商品が肉屋に並んでいることもありますが、フランスの場合、肉屋で販売しているシャルキュトリのほとんどは、実は工場で作られた製品です。
Q6:仕事の一日の流れを教えてください
朝はだいたい6 時~7 時頃にラボに入り、昼食は職場で軽く済ませ、17 時半頃には仕事はおしまいです。料理人と違って、上がる時間が早いので、その後は家族と過ごしたり、英会話のレッスンを受けたりしています。今回のような特別イベントの準備や、コンサルティング業務などのデスクワークも、夜の時間ですね。
Q7:自身のシャルキュトリで、お気に入りの一品は何ですか
ブーダンブランは私の店のスペシャリティですし、他にもいろいろありますが、一つ選ぶとすれば、やっぱりパテアンクルートですね。中のファルスもクルートも、完成されたレシピで、とてもよいバランスでできていると思います。今では息子がしっかり受け継いでくれています。
Q8:シャルキュティエ仲間とのネットワーク、グランシェフたちとのつながりについて教えてください
FFCC 第一回シャルキュトリ講習会の講師セルジュ・ルマリエさんは、MOF の同期で、家族ぐるみの付き合いです。ゴルフ友達でもあり、年に1 回は夫婦2 組でゴルフ旅行をしています。夫チームはラウンド、妻チームはショッピングやプールです。ちなみにシャルキュティエのゴルフ愛好会があり、年に1 回、大会があるんですよ。年を取っても体力のある人が多いので、80 過ぎの大先輩にかなわないこともしばしばです。
昨年の講師だったジル・ヴェロさんとも、同じ学校で学んだ仲ですし、実は私は独立する前、ヴェロ夫人のお父さんの下で働いていたこともあるんです。ヴェロ夫妻が結婚する前から、二人を知っていたというわけです。
グランシェフは、MOF 関連のイベントで一緒になる機会がありますし、個人的に親しいシェフもたくさんいます。ウィリアム・ルドゥイユさんの『Ze Kitchen Galerie(ズ・キッチン・ギャルリー)』やエマニュエル・ルノーさんの『Flocons de sel フロコン・ド・セル』には何度も食事に行っています。
Q9:MOF のモットーは「伝統の継承と発展」だそうですが、若いシャルキュティエの養成についてどうお考えですか。
シャルキュティエの社会的地位は昔に比べて大幅に改善しました。メディアでも取り上げられる機会が増え、人気シャルキュティエをめざす若者も増えているように思いますが、情報に踊らされて、土台となる技術がないままトップに上り詰めようとするのは危険だと思います。
私は自分の店できっちり技術を身に着けた若い子たちには、開業資金を貸してあげたり、しかるべきスポンサーを紹介したりして、独立の応援もしています。いずれにしろシャルキュティエとして成功する鍵は、しっかりしたマーケティングと、真面目な仕事です。
Q10:来日は初めてと伺っていますが、日本に来て驚いたことは何ですか。
日本人が皆さん礼儀正しく、親切なことです。そして地下鉄の駅構内や車内が清潔なことに本当にびっくりしました。日本食はフランスでも月に1-2 回は食べていますが、今回行った寿司屋や鰻屋、もんじゃ焼きは素晴らしかったです。来年はぜひ、夫婦で来日してゆっくり観光したいですね。
取材:フランス料理文化センター
写真:鰻重をぺロリと堪能されたジョリシェフ(5月20日撮影)